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すずかけ 令和3年10月号 素顔拝見(第286回) 令和2年度兵庫県芸術奨励賞受賞者 陶芸家 若杉 聖子(わかすぎせいこ)さん

鋳込み技法でシャープな造形

 自然豊かな里山や水田に囲まれた兵庫県三田市郊外のアトリエを拠点に、石膏(せっこう)による鋳込み技法で白磁作品を制作する女流作家。洗練されたシャープな造形が特徴で、国内外からの評価が非常に高い。各地での講演やワークショップなどでは、独自の鋳込み技法を披露して陶芸文化普及に貢献。京都市立芸術大学准教授として後進の指導にあたっている。

 富山市出身。実家の蔵には古いやきものや工芸品が数多くあり、正月には親戚(せき)が集まり特別な器で食事を楽しんでいたことなどから「今思えばですが、子供心にやきものなどに興味がわいたのかも知れません」。陶芸ができることの一択で、近畿大学文芸学部芸術学科へ。卒業後、やきものへの道があきらめられずに各地で研鑽(けんさん)。まず、滋賀県立陶芸の森で滞在制作中に鋳込みを教わった。そこで出会った多治見市陶磁器意匠研究所(意匠研)の中島晴美先生を追いかけて意匠研を目指すことに。「技術や知識のなさを痛感したからです。全国からの仲間と多くを学びました。どうやって食べていくか、必死でした」。意匠研を卒業後に美濃焼メーカーの会社にデザイナーとして勤務。「今の私にとって、その経験が大きな転機でした。誰かに必要とされるモノを作りたいと強く思うようになったのです」と若杉さん。

 恩師の紹介もあり岐阜県から三田市に移住して約12年。若杉さんは話す。「私の白い作品は植物の造形からのインスピレーションと、移りゆく陽と月の光、風や水の揺らぎなど日々の感動を作品に映しこもうとする試みなのです」。若杉さんの技法は「泥漿(でいしょう)鋳込み」といわれる。石膏の塊から原型を削り出し、型取り後、泥漿を鋳込み、研磨作業を経て焼成、さらに研磨など行程は多い。兵庫陶芸美術館学芸員のマルテル坂本牧子さんは「若杉さんは量産のため生まれた鋳込みの特性を活かし、鋳込みでしかできない形を自らの造形に引き寄せる作家の一人。デッサンなしで直接、仕上げるのも驚き。シャープな造形がまた一つ、新しい器の可能性を広げたと思っています。芯・意思が強い若杉さん。まだまだ成長できる作家です」と活躍に期待を寄せる。

「白磁四方鉢」「白磁一輪挿し」2019年 ©Tadayuki Minamoto

アトリエにて原型を削る若杉さん ©Tadayuki Minamoto

 作品は器、花器はもちろんオブジェまで多彩だ。「ロクロも好きですが、私は一瞬でカタチが決まるスピード感より、ゆっくりカタチを探る鋳込みが合っていると思っています。陶芸を続ける理由?純粋にやきものが好きだからでしょう」と若杉さん。笑顔が魅力的でした。陶芸家を目指す若者には「失敗からの試行錯誤を楽しんで。個性が大事で必要。どんどん海外に出て活動して欲しい」と励ます。受賞と今後の抱負について「兵庫県出身者でない私が兵庫県から立派な賞をいただき素直にうれしく、感謝しています。今後も石膏型での鋳込みにこだわり、型ならではの表現の可能性を追求し、日常を豊かにするモノ作りを目指します」と語った。12月18日から26日まで、岡山県倉敷市の工房IKUKOで個展を開く予定だ。

若杉聖子さんプロフィール

文化庁新進芸術家の海外研修制度で2015年から1年間、仏で滞在製作。今春の兵庫陶芸美術館での開館15周年記念特別展に出品。国際陶磁器展美濃審査員特別賞、工芸都市高岡クラフトコンぺティション奨励賞受賞。三田市では、ゆっくりと自分と向き合って制作でき「精神的な転機になった」という。44歳。

「素顔拝見」は、兵庫県芸術文化協会が発行する月刊の文化情報紙「すずかけ」に掲載しているインタビュー記事です。「すずかけ」は、兵庫県芸術文化協会友の会会員の皆様のご自宅に毎月お届けしています。
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