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すずかけ 令和4年1月号 素顔拝見(第289回) 令和3年度兵庫県文化賞受賞者 陶芸家 大上 巧(おおがみたくみ)さん

産地活性化願い作陶 登窯も修復

 約800年の伝統を誇る丹波焼(丹波篠山市・立杭(たちくい))の窯元「大熊窯」の代表。丹波立杭焼伝統工芸士会会長を務め、丹波焼を引っ張る一人。丹波焼独特の「海老(えび)徳利」や工芸品などを数多く作陶する一方、産地の活性化、発展を願い、「丹波焼陶器まつり」や現役最古の登窯の修復・復活事業を計画。その中心的役割を果たしたことでも知られる。

 大上さんは追手門学院大学で経済学を学び、京都の陶芸家宮永東山の二代、三代目に師事した後、「大熊窯」で作陶開始。大熊窯は江戸初期の創業で、現在、大上さん、次女の伊代さん、三女の恵さん父子が作陶に励む。鉄分が多い丹波の土は高温の登窯で焼くと硬く締まる。「その焼き締めが丹波焼の持ち味で魅力。窯の中で土と炎がどんな景色を作ってくれるか、いつもワクワク。でも横穴から激しく吹きだす大炎を巧みに操り、3昼夜にも及ぶ窯炊(だ)きは労力、コストがかかり大変です」。作り始めて40年以上という「海老徳利」は江戸期以来の装飾技法で筆とスポイドで描く自慢の「イッピン」。創作の全ては叔父の大上昇さんの仕事を見て学んだ。「叔父さんに比べるとまだまだです」と謙虚な大上さん。

 「丹波焼陶器まつり」は大上さんら若手七人で結成した「グループ窯(よう)」が主体となり多くの人を呼び込もうと提案。1978年の初回は大にぎわいで交通渋滞を起こし、1日目でほぼ完売。グループ員の友達や役場の人らに交通整理や売り子を頼み、グループ窯以外の窯元にも出品してもらって2日間やり通した。それ以降、毎年10月中旬の週末に開催。今や丹波焼最大の行事に発展した。

 現役最古の登窯は上立杭地区の里山の勾配を利用して東西47メートルに渡って長く建築され、焼成室9室(袋)を持つ。記録によると1895年に築窯(ちくよう)。兵庫県指定有形民俗文化財。
 傷みが激しく荒れたまま残された窯を修復し丹波焼のシンボルとして活用をという機運の高まりがきっかけ。丹波立杭陶磁器協同組合も賛同し、2013年に「登窯修復実行委員会」が結成され、同組合理事長を務めた大上さんが委員長に就任。また兵庫陶芸美術館(三木哲夫館長)が中心となり作業を手伝うサポーター確保、資金集めを推進。地元自治会など地域団体も一体となって支援し協力。築窯当時の技術を極力用いての修復を進めた。15年11月に初焼成、約4千点が窯出しされた。大上さんは「修復は大事業で最後のご奉公との思いで取り組んだが、支えてくださった県、市、自治会や仲間らみなさまのおかげで復活。その活動が評価されての受賞であり感激です。ありがとうございました。今後は保存委員会を中心に、国の文化財指定を目指し、築窯技術の伝承などの活動に努めたい」。「判断力があり前向きな大上さん。もっと頑張ってほしい」と三木館長。陶芸の道を歩むまな娘には「独自の作風で2人仲良く続けてもらえればうれしい」。大上さんはほほえんだ。

修復を終えた直後に、窯焼き作業をする大上さん=2015年

「健康に気をつけ創作を続けて」―喜びの記念撮影で父と話す伊代さん(右)と恵さん=上立杭の大熊窯で

大上巧さんプロフィール

兵庫県工芸美術作家協会理事長として工芸美術振興にも尽力。丹波立杭焼伝統工芸士。優れた調整能力を持ち芸術文化関係者の信頼も厚いといわれる。田部美術館・茶の湯の造形展入選・奨励賞、兵庫工芸展神戸新聞大賞、同県功労者表彰、同県技能顕功賞、経済産業大臣表彰など多数受賞。70歳。

「素顔拝見」は、兵庫県芸術文化協会が発行する月刊の文化情報紙「すずかけ」に掲載しているインタビュー記事です。「すずかけ」は、兵庫県芸術文化協会友の会会員の皆様のご自宅に毎月お届けしています。
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