2021.08.01 (日)
すずかけ 令和3年8月号 素顔拝見(第284回) 令和2年度兵庫県芸術奨励賞受賞者 美術家 東影 智裕(ひがしかげともひろ)さん
生と死テーマに動物の頭制作
「生と死」を根幹のテーマに動物の姿(頭部)を超絶技巧で表現した立体作品で知られる東影さん。作品は、毛並みや体毛までもが驚くほど緻密に描写され、見るものを圧倒し強く引きつける。その労作を展示した展覧会が9月26日まで、神戸市中央区の兵庫県立美術館で開かれており、注目されている。
展覧会名は「美術の中のかたち―手で見る造形 東影智裕展―触知の森」。「美術の中のかたち」は視覚に障害のある方にも足を運んでもらうことを目的にほぼ毎年開催している展覧会。今回は31回目。コロナ禍で昨年の開催を約1年間延期していた。また今回、希望者には直接手ではなく用意した薄い使い捨て手袋をして作品に触れてもらうことにしたという。
動物の頭部のほか、毛並みが倒木などに寄生した作品計12点を展示。「作品制作は、自らの身体的、触覚的な経験の積み重ねです」と東影さん。さらに「動物は、子供の頃に見た絵本や図鑑などの曖昧な記憶の蓄積を基に作り出すため、実在するモデルは存在しません。作品は単なる物質で、生きておらず死ぬこともない存在です。心、存在、時の流れが主題で、作品の中に生と死、心や魂を感じる作品を作りたいと考えています」。樹脂を使って作品を成形するが、型取りを行わず、すべて塑像で自分の手で直接制作。見る角度によって多様な捉え方ができるようにと作品には多面性を持たせている。緻密な毛並みなどは樹脂が固まるまでに針状の用具で一本ずつ筋を入れた後、アクリル絵の具でていねいに彩色する。「動物の首は死を幻視させ、反面、素材感と針で刻まれた毛皮の質感は残酷と諧謔を同時にはらみこむ。異彩を放つ話題の造形作家である」とギャラリー島田での初個展で、島田誠代表はホームページなどに記した。
武蔵野美術学園卒業後の04年ごろから樹脂や絵の具で立体作品を制作する中、07年ごろから動物の頭を作り始めた。東影さんは「アパートの自室で飼っていたウサギがきっかけ。でも作品にしたのは私が作り出した別のウサギですよ。その後、主にウシ、ヒツジなど人の生活圏で見られる動物を制作。シンプルさを極めるうち、頭部での表現になりました」と話す。
「五島記念文化財団第27回五島記念文化賞」美術新人賞を16年に受賞したことで、同文化財団の助成を受け、17年から1年間、海外研修としてポーランド・クラクフに滞在。「歴史ある街並みにあふれる光と影の美しさが最も印象に残った」。東影さんは帰国後、この思いを込めた新作を発表した。17年の原田の森ギャラリーリニューアルオープン展では新進気鋭作家20人に選ばれた。奨励賞受賞については「思っても見なかった賞を頂き感激です。受賞を励みに、より多くの方に知って頂けるよう作品づくりに努めます」と東影さん。
東影さんの海外研修成果発表展が9月23日から10月10日まで、東京にある彫刻家の故・平櫛田中氏の旧アトリエで開催される。これまでより抽象的な新作を出品する予定だ。
東影智裕さんプロフィール
高砂市出身。武蔵野美術学園造形芸術科・メディア表現科コース研究課程卒業。「第3回あさごアートコンペティション」スポンサー賞、「姫路地方文化団体連合協議会」第37回黒川録朗賞など受賞。国内外の企画展に招待・出品、個展開催など活躍。姫路市夢前町在住、43歳。
「素顔拝見」は、兵庫県芸術文化協会が発行する月刊の文化情報紙「すずかけ」に掲載しているインタビュー記事です。「すずかけ」は、兵庫県芸術文化協会友の会会員の皆様のご自宅に毎月お届けしています。
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