2021.04.01 (木)
すずかけ 令和3年4月号 素顔拝見(第280回) 令和2年度兵庫県文化賞受賞者 陶芸家 市野 年成(いちのとしなり)さん
親子で文化賞受賞「光栄です」
日本六古窯の一つとして日本遺産に認定された丹波焼(丹波篠山市など)を代表する作家。同市今田町にある「延年窯(えんねんがま)」の二代目窯元でもあり、丹波焼の伝統を踏襲しつつ、白丹波など独自の作風や技法を追及し作陶を続けている。兵庫県文化賞は、父親の弘之さん(故人)に続く親子での受賞で、その喜びを「親子で受賞できるとは思ってもみませんでした。私にとっては、作陶50年の節目での受賞で大変ありがたく光栄です。受賞を糧に生涯、目的を持って新たな作品づくりに励みます」と話した。妻の逸子さんは「うれしい受賞。この日がきてよかった…です」。
弘之さんは、高等小学校以降、古丹波製作に専念。1958年のブリュッセル万博に出品した火鉢がグランプリを獲得。翌59年に兵庫県文化賞を受賞。丹波窯業界の中心的存在だった。延年窯を築き、91歳で旅立った。
長男の年成さんは「父からは進路について特に話はなかったため、地元の中・高校ではハンドボールに打ち込んだが、デザイン関連の仕事をしようと大阪芸術大学芸術学部デザイン学科に入学、卒業したのです」。4回生の時、大きな転機が訪れた。京都の陶芸家で日本工芸会理事だった岩淵重哉・嵯峨美術大学教授(故人)と出会えたことだ。岩淵先生の個展を鑑賞、丁寧で美しい作品に感動し、京都市内の先生宅に内弟子として4年間住み込んで師事した。「完璧を求める先生。物事の作り方をはじめ作陶の基礎から制作過程までをじっくり学びました。今、陶芸作家として活動していられるのは、岩淵先生のおかげで感謝しています」と年成さん。
京都から帰郷し延年窯で作陶を始めた。江戸時代後半に焼成された白丹波の作品づくりをテーマにした。その作品は、丹波の土で成形後、泥状にした白い化粧土と透明釉(ゆう)を掛け、さらに絵付けや白土で模様をはめ込むなど細工し焼きあげる。「陶芸の魅力は窯で火の洗礼を受けること。白丹波作品は、白にすごく魅力を感じたうえ、当時、丹波には作陶者がいなかったため挑んだのです。白丹波作陶は大好き」と年成さんは熱っぽく話した。写真は菊の花びらをイメージした白模様が美しい。仕上がりもよく気に入った作品だ。また漆(うるし)を施した陶漆。近年は、県内外のホテルなどと連携し、丹波焼の器と料理をコラボするなどし普及促進に貢献。韓国や中国など海外の展覧会にも出品し国際的にも活躍。
大阪芸術大学教授に50歳で就任。週3回片道2時間半かけて電車通勤し後進の育成に尽力、2年前に退官した。兵庫県文化協会の生活文化大学では陶芸の講師を務めた。長男の正大(まさひろ)さん、次男の弘明さんは陶芸家として丹波で活動中。正大さんは「今も新作に挑戦する姿勢が素晴らしい。尊敬しています」。
市野さんの文化賞受賞記念展が5月下旬から8月下旬まで、兵庫県公館県政資料館「兵庫の文化」の展示室で開催される予定だ。
市野年成さんプロフィール
民族芸術学会、東洋陶磁学会会員。伝統工芸近畿展入選(以降毎年)、日本伝統工芸展入選、福井県越前陶芸公園にモニュメント設置。兵庫県芸術文化奨励賞、半どん及川記念賞、兵庫県美術展近代美術館賞など受賞。個展、父子展、グループ展など多数開催。72歳。
「素顔拝見」は、兵庫県芸術文化協会が発行する月刊の文化情報紙「すずかけ」に掲載しているインタビュー記事です。「すずかけ」は、兵庫県芸術文化協会友の会会員の皆様のご自宅に毎月お届けしています。
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