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すずかけ 令和4年2月号 素顔拝見(第290回) 令和3年度兵庫県文化賞受賞者 書家 田中 徹夫(たなかてつお)さん

師弟で栄えある文化賞受賞

 黒田賢一氏(74)(日本芸術院会員)に師事し本格的に書の研鑽((けんさん)に励み続けて45年。師弟での文化賞受賞者となった田中さん。古典研究で得た骨格の強さを根底に現代性を加味した独自の美しい大字かな作品は現代書壇の最高峰とされる日展で高く評価されている。現在、日展会員のほか、読売書法会常任理事、日本書芸院常務理事、全国書美術振興会理事など全国的な書道団体の要職を務める一方、兵庫県では昨年度から兵庫県書作家協会会長として書道文化の発展に貢献。本県書道界になくてはならないといわれる存在だ。

 兵庫県たつの市出身。3歳から高校3年生まで父親に書と柔道を教わった。書は左ききを直すためだった。東京の専修大学経済学部時代、書が恋しくなり町の書道教室に通い漢字を学習。大学卒業後、会社勤めを経て帰郷し、書塾を開き書でやって行こうと決めた1977年、25歳の秋。父の薦めによる黒田氏との運命的な出会いが人生最大の転機となった。黒田氏は当時、姫路市在住の31歳。最初は断られたが熱意が通じて通い弟子に。田中さんは熱っぽく語った。

 「先生には書の技術から生活、書家の根幹などすべてを指導して頂きました。先生は天才肌で書に対して純粋、やさしく思いやりある人柄も魅力。先生にめぐり会っていなければここまで来られませんでした。今も温かい指導を仰ぐなどしています」。語り口に強い((きずな)が感じられた。現在、黒田氏は日展副理事長、書道研究団体正筆会会長などを務める“大御所”。2003年に兵庫県文化賞を受賞。

 「私は不器用で努力家」と田中さん。当時は元気で一日8~10時間は筆を持ち、1カ月に何百枚も書いた。「人の倍書くことを目標に死に物狂いで頑張りましたが、思い通りに書けるのは百のうち一つあるかないかです」。専門は師と同じ「かな書」。かな古典は伝紀貫之筆の寸松庵(すんしょうあん)色紙、漢字の古典は王義之(おうぎし)筆の集字聖教序(しゅうじしょうぎょうじょ)などを中心に研究した。

たつの市龍野町の自宅アトリエで創作に励む田中さん
(公益社団法人日展 提供)

 「書は線の芸術。かなは余白がいかに美しいかがすべてだ」と田中さんはきっぱり。さらに「得意で自信があるのは大字かな。かなは画数が少ないので一本一本の線にこだわって書いています。写真の大字かなの作品を見て下さい。余白の美しさを追求、墨の(かたまり)とかすれで立体感を出すことを主眼にし半年かけて書きあげました」。この作品は2月26日から大阪市立美術館で開かれる第8回日展大阪展で観覧できる。文化賞受賞に田中さんは「受賞者は錚々(そうそう)たる方ばかり。文化賞への意識は全くなかったので青天の霹靂(へきれき)でした。黒田先生から『よかったね』とお祝いの言葉をかけられ感動しました。今後は書道の楽しさを伝えるともに、温かさがある、見た人の気が休まるような書を目指します」。2月19日から兵庫県書作家協会など主催の第57回兵庫県書道展が神戸市・原田の森ギャラリーで開催予定。同協会最大規模の書道展。「オミクロン株感染対策を徹底させ、ぜひとも開きたい」と田中さん。

2021年の第8回日展に出品した田中さんの新作「秋風」(万葉集から)縦70㎝×横225㎝

田中徹夫さんプロフィール

正筆会副理事長、景水会主宰。1994年読売書法展 読売新聞社賞。95、96年日本書芸院展 史邑賞、半どんの会文化賞、2007、10年日展で特選受賞、日展審査員を経て15年より日展会員、18年大阪府知事表彰、19年日展会員賞受賞。各書道教室で後進指導も。たつの市在住、69歳。

「素顔拝見」は、兵庫県芸術文化協会が発行する月刊の文化情報紙「すずかけ」に掲載しているインタビュー記事です。「すずかけ」は、兵庫県芸術文化協会友の会会員の皆様のご自宅に毎月お届けしています。
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