兵庫県立ピッコロ劇団第24回公演「KANADEHON忠臣蔵」

脚本=石川 耕士  演出=加納 幸和(花組芝居)

 
   
■ 全段のあらすじ
江戸時代には、実際に起きた事件をそのまま劇化することはできませんでした。
実名をはばかり、表面上は“歴史”として過去の物語に仮託される習慣があったのです。

元禄期に起きた赤穂事件も、足利時代の「太平記」の世界に置き換えられています。すなわち、足利尊氏の弟・直義の鎌倉下向をもてなすという発端に、実際の勅使饗応が仮託され、饗応役の浅野内匠頭は塩冶判官、吉良上野介は高師直となりました。師直が塩冶を滅ぼす「太平記」の物語に置き換えられたわけです。

「太平記」ではその原因として、当時絶世の美女と謳われた塩冶の妻・顔世に、師直が邪恋を抱いたという巷説に拠っています。そのため、実際の吉良と浅野の間にはなかったであろう“恋”ゆえの確執が、師直の判官いじめに興趣を加えることになりました。

大星由良之助(大石内蔵之助)の息子・力弥(主税)と、松の間(松の廊下)で判官(浅野)を抱き止めた加古川本蔵(梶川与惣兵衛)の娘・小浪を許婚とした設定。それに早野勘平・おかるのカップルを重要な登場人物としたことを含め、“恋”のテーマが劇化の重要なポイントになっていると言えるでしょう。

ついでながら、高師直は足利尊氏家執事、尊氏の側近として権威をふるった人物ですが、苗字の連想ゲームで吉良役職“高家(典礼儀式の指南番)”につながります。塩冶の性もまた、赤穂の塩田で知られた浅野に結びつくというわけで、この実名をはばかった置き換えには奥の深い仕掛けが感じられます。


大序
新田義貞を滅ぼして将軍となった足利尊氏は、弟・直義を鎌倉へ遣わした。その饗応役は塩冶判官と桃井若狭之助。しかし義貞の兜を鶴ヶ岡八幡へ奉納することについて、若狭之助は高師直と対立。しかも判官の妻・顔世御前を師直の邪恋から救おうとしたことで、若狭之助は師直に憎まれ恥辱を受ける。

二段目
その若狭之助の家老・加古川本蔵の娘・小浪は塩冶判官の家老・大星由良之助の息子・力弥と許婚の間柄。本蔵は主人・若狭之助から、師直に受けた遺恨を晴らすため、明日殿中で討ち果たすつもりだと打ち明けられる。

三段目
翌朝、本蔵は師直に大金を賄賂として贈り、若狭之助が討とうとしても、師直の方から謝ってもらうよう工作する。まんまと成功はしたものの、師直の怒りは判官に向けられ、顔世からの拒絶の返事が届いたこともあって散々に侮辱。判官も耐え切れず刃傷におよぶが、本蔵に止められて討ちもらす。

この日、判官の供をした早野勘平は、腰元おかると恋仲だった。おかるは勘平に逢いたいばかりに、顔世から師直への返事を敢えて届けてしまった。しかも二人が逢瀬を楽しんでいる間に刃傷が起こり、武士として進退きわまった勘平は死のうとするが、おかるに止められ、ひとまずおかるの実家である、京の南の山崎へ向かうことになる。

四段目
判官には切腹の沙汰が下った。駆けつけた由良之助へ思いを託し、潔く果てる判官。不忠者の家老・斧九太夫を除く家臣たちは、館を明け渡さずに戦って討ち死にすることを望むが、由良之助はその軽挙を諫め、判官の無念を晴らすため師直を討つことを誓い合う。

五段目
時移り、山崎で猟師に身をやつしていた勘平は、朋輩だった千崎弥五郎に出会い、亡き主君への詫びとして敵討ちに加わりたいと胸の内を訴える。

同じ夜、婿の勘平を元の侍にするには金が必要と思い、おかるを祇園町へ売ることにした父の与市兵衛は帰り道を急ぐが、山賊になった斧定九郎に殺され、半金の五十両を奪われる。しかし定九郎も、猪を狙った勘平の鉄砲に当たって絶命。人を撃ってしまったことに動揺する勘平だが、徒党に加わるため軍資金を調えて渡そうと、その五十両を手に千崎のもとへ急ぐ。

六段目
翌朝、家へ戻った勘平は、おかるを迎えにきた遊女屋の亭主の話から、昨夜撃ち殺してしまった旅人は、舅の与市兵衛であったに違いないと思い込む。父を案じつつおかるが売られていったあと、運び込まれる与市平衛の死骸、おかるの母・おかやも財布を証拠に、殺したのは勘平であろうと責める。そこへ訪れた原郷右衛門と千崎からも、舅を殺して奪った金は不要と突き返されるので、言い訳も立たない勘平は腹を切るしかなかった。だが与市兵衛の傷跡から誤解の解けた勘平は、敵討ちの血判を許され、おかるへの思いの残し死んでいく…。

七段目
一方、由良之助は祇園町で遊興にふけっていた。軽輩の足軽ながら忠義な、おかるの兄・寺岡平右衛門が徒党に加わりたいと訪れても、本心を明かそうとはしない。

しかし力弥が届けてきた顔世御前からの密書を、今は遊女となっているおかると、師直方の間者になった九太夫の両人に読まれてしまう。由良之助はおかるを身請けすると言い出すが、秘密を守るため殺すのだと察した平右衛門は、兄である自分が手にかけることで、徒党に加わるための心底を示そうと決意。またおかるも勘平の最期を聞いて、死ぬことを承知する。兄妹の心を見届けた由良之助は、平右衛門を四十七人目の同志に加え、おかるには勘平の代わりとして、敵きの片割れである九太夫を討たせるのだった。

八・九段目
本蔵の後妻・戸無瀬は、義理の娘だけに愛しい小浪の恋をかなえてやろうと、山科の由良之助の侘び住居まで押しかけ嫁入りにやってくる。だが由良之助の妻・お石は、師直に賄賂を贈って裏工作をしたり、判官を抱き止めて本意を達し得なくした本蔵の娘は嫁にはできないと手厳しい。意外にも虚無僧姿でこの家を訪れた本蔵は、それを聞くと逆に由良之助の行状を罵るので、怒ったお石と争いになり、遂に力弥の槍に刺される。わざと挑発して殺されることでしか、判官を抱き止めてしまった一生の過ちを清算することはできなかったのである。命を捨てても娘の恋をかなえてやりたい親心。それは由良之助も察していたが、敵討ちを前に、すぐに力弥に別れることになる小浪が哀れと嫁入りを拒んだのであった。忠義を立てることへの複雑な思いを胸に両家の人々は和解。ただ一夜だけの夫婦となる力弥と小浪、死にゆく本蔵たちを残して、由良之助は堺へと出立する。

十段目
堺の廻船問屋・天河屋義平は、由良之助からの依頼で討入りの武器や装束を調え、秘密を守るためと、もしもの時に難が及ばないよう、女房のお園を離別さえした。それほどの心底を疑われ、町人ゆえかと無念に思うが、由良之助は義平の義心をたたえ、その家名の“天”と“河”を討入りの合い詞に定める。

十一段目
由良之助はじめ塩冶の旧臣は師直の館へ討入り、その首級を取って判官の恨みを晴らした。駆けつけた桃井若狭之助を前に、今は潔く亡君の側へ急ぐと語る由良之助であった…。
(石川 耕士)

大星由良之助=渡辺 徹(文学座) / 石堂右馬之丞・矢間重太郎=瀬口 昌生 / 鷺坂伴内=孫 高宏 /
薬師寺次郎左衛門・天河屋義平=福島 栄一 / 加古川本蔵=森 好文 / 原郷右衛門=梁瀬 満 /
千崎弥五郎=眞山 直則 / 塩冶判官・寺岡平右衛門=伊藤 雅典 / 竹森喜多八=穂積 幸良 /
桃井若狭之助・斧定九郎=吉村 祐樹 / 斧九太夫=奇異 保 / 高師直・与市兵衛=風太郎 / 足利直義=山田 裕 /
一文字屋才兵衛=岡田 力 / 大星力弥=西原 康彰 / 戸無瀬=安達 朋子 / お石=木全 晶子 /
お園=和田 友紀 / 顔世・下女りん=森 万紀 / おかる=樫村 千晶 / 小浪=道幸 千紗 /
由松(※昼公演のみ)=福島 玖宇也 / 早野勘平=各務 立基(花組芝居) /
おかや=加納 幸和(花組芝居) / 語り(声のみの出演)=浜村 淳 /

美術=川口 夏江 / 照明=橋本 和幸 / 音響=清水 吉郎 / 衣裳=三大寺 志保美 /
小道具=宇佐美 雅人(バックステージ) / 床山=太陽かつら店 / 演出助手=大野 裕明 / 舞台監督=安田 美知子 /
制作=山本 由利子 / 制作助手=吉江 麻樹(ピッコロ劇団員) / スタッフ=赤松 加奈子・杏華(ピッコロ劇団員)/

主催=兵庫県立尼崎青少年創造劇場

2006年(平成18年)
1月28日~2月3日  兵庫県立芸術文化センター中ホール

兵庫県立芸術文化センターオープニングシリーズ
平成17年度芸術文化振興基金助成事業